かぐらの歴史エンタメ遊園地

歴史の面白い話を書いていこうと。

あの聖人孔子さまを誘惑した女? 南子【女たちシリーズ005】

 唐突ですが、つまらないアニメの紹介をさせてください。

 1995年、NHKで放送したアニメで「孔子傅」です。

 ネットで見つけて視聴したのですが、正直なところあまり頭に入ってきませんでした。『東周英雄伝』を原作としています。(ちなみにつまらないというのはアニメの方ですよ。『東周英雄伝』ではありません)

 

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(これだけ見ると面白そうなのですが……。

 ちなみにキャストは今では考えられないくらい豪華ですよ)

 

 というのも、ほとんど孔子さまの言行録『論語』の1エピソードにしか出てこない人物なんですよ。儒教の世界ですから女性のような艶めいたエピソードが乏しいのは仕方ないことです。ちなみに紹介すると、

 

 ※

 

 「子見南子、子路不説、夫子矢之曰、予所否者、天厭之、天厭之」
孔子が南子に謁見した。 

 子路は快く思わなかったが、
 孔子は「私にやましい所があれば、天これを私を嫌って見捨てるだろうよ)

 

 ※

 

 たったこれだけ。

 南子は衛の霊公の夫人で、淫らな女性だったと言われています。

 ただ噂が勝手に一人歩きしたという可能性もありますが、僕はそうでもないと思います。

 すくなくとも南子の夫の霊公は名君ではなかったでしょう。『霊』という文字がついている王様はたいていは暗愚ですから。

 さて、話は南子ではなくて孔子にもどりますが、南子に会うということで、弟子の子路が怒るわけです。子路孔子の弟子で一本気のある男ですから。

 そんな南子ですが、

 孔子を誘惑した……。

 などという悪い噂をたてられています。おそらく孔子の死後の話でしょうが。

 まあ、孔子の話を面白おかしくするためのデマなんでしょうけどね。

 孔子が拝謁したとき、南子は簾の向こう側で会釈しただけといいます。

 もしも南子が孔子を尊敬していたら、簾をあげてじかに会うに決まっています。

 にも、かかわらずどうしてこんなデマがでてくるのか……。

 孔子の人生って地味なんですよ……。

 真面目な方には申し訳ないけど、孔子の人生って、ドラマ化してもちっともつまらないと思うんですよ。

 四大聖人っているじゃないですか。

 孔子・釈迦・キリスト・ソクラテス

 のこりの三人はみんなドラマチックな人生を送っているのですが、孔子だけはさびれた町の洋服店のように地味で見栄えはしないんですよ。実用性は高いんだけど、華やかではない。

 だから南子が孔子に恋慕していたなどというデマが生まれたのでしょう。

 儒教関係の話を調べるとあまり艶めいた話はでてきません。

 儒学=お勉強ですからそりゃあ女性の話がでてこなくなるのは仕方がないことです。

 儒学そのものは使い方次第ではものすごく役にたつ学問です。治世のための学問ですから。いわゆる君子を育てるのには役にたちます。

 にしても、男尊女卑の傾向があるのは仕方ないところなのでしょうか……。

 儒学というのは女性をつまらなくする作用があるのでしょうかね?

 

夏姫 男を翻弄した人生か、男に翻弄された人生か【女たちシリーズ004】

 今回は夏姫。

 『なつひめ』と読みそうですが、『かき』と読みます。この人物を最初に知ったのは陳舜臣さんの『十八史略』を読んだときです。f:id:kagurayukkuri:20180901174437p:plain

 夏姫は鄭の穆公の娘です。
(鄭の穆公はのちに覇者となる晋の文公となる重耳を粗末に扱った『文公』の息子ですね。こちらも文公なのでややこしくてこんがらがってしまいます。今回の話とはさほど関係ありませんが)

 『十八史略』は子供の頃に読んだのですが、正直どんな内容だったのか全部は覚えていません。でも、夏姫のことははっきりと覚えています。それだけ強烈なエピソードでしたから。

 夏姫は兄である子蛮と禁断の関係にあったのです。

 近親相姦の関係にあったのです。

 ですが、子蛮は程なく死んでしまいました。

 ふたりが男女の関係にあったという淫らな噂はすぐに広まりました。当然、父親である穆公の耳にも入ります。鄭の国にとっては一大事です。この醜聞を一刻も早く押さえ込まなければなりません。

 そこで、陳の大夫の夏御叔に嫁がせました。

 夏姫は子供を産んで、さてやっと落ち着いたかなといったところで、夏御叔が死んでしまったのです。

 夏姫にかかわった男がどちらも早死してしまったのだから、たまったものではありません。

『夏御叔は自然死したのではなくて、殺されたんじゃないのか……』

 などという者まで出てくる有様。

 ところが話はこれで終わらない。今度は陳の霊公と陳の大夫の孔寧・儀行父までもが私通するという始末。

 いかに夏姫の生きた男社会で、しかも封建社会、君主からの誘いは断れないとはいえ、いささか男性関係が派手すぎます。

 しかも、3人は夏姫の肌着をつけて朝廷でふざけあっているというではありませんか……。

 現代に置き換えてみればおっさん2人がブラジャーつけて職場で遊んでいるわけです。これはもう気持ち悪いとしか言いようがない。

 中小企業ならそれでもまだどうにかなるかもしれません。(こういう職場が現実にあったら、働いているOLはどう思うか……)

 しかし、陳の霊公は一国の君主です。

 真面目な家臣だったら、当然黙って見過ごせません。

 洩冶という家臣が霊公を諫めたわけです。

 このことを霊公が孔寧・儀行父に言うと、

洩冶を殺しましょう

 と、言うわけです。霊公は何も言わなかった。

 孔寧・儀行父は洩冶を殺しました。

 これはもう国家として終わっていますね……。

 当たり前のことなんだけど、止めなかった時点で殺害を黙認したようなもの。

 というか、むしろ孔寧・儀行父が霊公の意を汲んで洩冶を殺害したといった方が正しい解釈だと思う。

 もちろんこの三人は洩冶を殺したことに微塵も罪悪感を感じてはいません。

 夏姫のところで三人で宴会しているわけですよ。

 

霊公「夏徴舒はおまえに似ているな」

儀行父は「いやいや、我が君にも似ておりますぞ」

 

 酔っ払ってこんなことを言い合っているわけです。

 これに激怒した夏徴舒は霊公の暗殺を決意します。

 霊公が外出するところを厩から弓を射て殺害した。孔寧・儀行父は身の危険を感じて亡命しました。

 一国の君主が暗殺されてしまったわけですから、陳の国は大混乱に陥りました。

 そこで強国である楚が軍事介入してくるわけです。

 楚の軍がやってきて、夏徴舒は殺されてしまうわけです。

 荘王は陳を自分の領地にしようとしたのですが、家臣の諌めもあって、に亡命していた陳の太子の媯午を迎え、陳を復国させました。

 そして、成公として即位します。

 ところが話はこれで終わらないわけです。

 なんと、荘王は母親の夏姫を後宮に入れようとするのです。

 謀反人の母親を自分のハーレムに入れようとか、いくら夏姫が絶世の美女とはいえちょっと異常ですよね。

 

 夏姫は男を狂わせる魔性のなにかを秘めていたでしょうか。

 

 これをとがめた家臣がいます。巫臣といいます。

 「色を貪るのを淫といい、淫は大罰を受けるものです」といって王を諫言したので、荘王は後宮に入れるのを取りやめました。

 また子反(公子側)が彼女を取ろうとしたので、巫臣は「これは不祥の人です」といって引き止めた。

 荘王は夏姫を連尹の襄老にとつがせたが、襄老が邲の戦いで戦死し、その遺体が回収できなかったため、襄老の子の黒要が彼女と通じた。

  ここまでくると悪女という生やさしいレベルではありません。

 巫臣は自分が妻に迎えるので故郷の鄭に帰るように夏姫に伝えた。

 巫臣はへの使者として立った。巫臣は鄭に立ち寄ると、夏姫を迎えて、ともに斉に逃れようとした。しかし斉は鞍の戦いで敗れたばかりだったために取りやめ、郤至と連絡して晋に亡命した。巫臣は晋により邢の大夫とされた

 これに怒ったのはかつて夏姫を手に入れようとした子反と荘王の弟の子重でした。

 巫臣の一族を皆殺しにしてしまうのです。

 復讐に燃える巫臣は呉の国を説いて、楚に侵攻させるのです。

 このため子重と子反は1年に7度も戦いに駆けずりまわることとなったといいます。

 

 

はがきの威力を馬鹿にするな! 手紙で天下をとった男、徳川家康【関が原の戦い】

 

 みなさん、連絡はどうします?

 メールとか、ラインとか、色々なSNSが発達しているじゃないですか。

 おそらく手紙よりも便利だと思います。

 しかし、メールよりも手書きの手紙の方が気持ちが伝わる場合もあるのではないでしょうか?

 それを実際に証明するエピソードがあるのです。

 実証した人物は徳川家康。しかも、手紙の威力が発揮されたのは天下分け目の『関が原の戦い』においてです。

 

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 関が原の戦いについては説明はもはや不要でしょう。

 1600年、徳川家康と石田光成が関が原で激突した戦いです。

 この戦いで小早川秀秋の裏切りによって東軍の徳川家康が勝利したのは皆さんもすでにご存知でしょう。

 この戦いは家康の東軍は8万、それに対して光成の西軍は10万以上だったと伝えられています。

 

 兵力では家康の方が不利だったわけです。

 

 しかも、作家司馬遼太郎の紹介によって有名になった逸話があります。

 明治時代、プロイセン王国から覇権された軍事教官メッケルが関が原の戦いの布陣図を見せられました。すると即座に答えました。

『これは西軍の勝利だ』

 実際に勝利したのは東軍ですが、そのことを伝えてもなかなかメッケルは信じてくれません。戦術的にはメッケルの言うとおりでした。しかし、東軍は事前に西軍に調略していたことを話すとやっとメッケルは納得したそうです。

 

 

 その家康ですが、関が原の戦いの前の2ヶ月間に161通もの手紙を書いていたそうです。

 すさまじい数の量です。

 

 これがメールだったら、すぐに返信できるでしょう。もちろん当時はメールどころか電話さえありません。かりにあったとしても盗聴を恐れて使わないかもしれませんが。

 しかも、この手紙は大半以上が家康の直筆だったそうです。

 国のトップ、しかも死ぬか生きるかの戦争直前にこれほどマメに手紙を書くというのは驚くべきことです。

 結局、家康の筆マメが効果を発揮して戦いに勝利し、天下を得ることができました。

 

 

 かりに戦国時代にメールが存在して、しかも盗聴されず安心して使えると仮定しましょう。人生のかかった一大事の用件を、

 

(メールで伝えるかどうか……)

 

 ちょっと疑問です。僕だったらじかに会えないのなら、手紙で書いて伝えますね。

 裏切ってこちらの味方になってくれとお願いするわけですからね。

 一世一代の大博打を頼むわけですよ。

 それを指でぽちぽちと押して送信ボタンを『ぽちっ』と押したメールで、心が動かされますかねぇ……。

 

 

 メールなどのSNSの方がずっと便利なのは間違いありません。

 しかし情報化の難しい人の気持ちを伝えるには、

『はがき』

 の方がよろしいのではないのでしょうか。

 

 

 電子化された殺伐とした世の中でも、人の絆はまだまだ残っているでしょうから。

 

 

 


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ルクレティア 古代ローマの陵辱された貞淑な人妻【女たちシリーズ003】

 これも歴史上に存在するかわからない女性です。

 女性の名はルクレティア。

 ローマ建国史に出てくる伝説上の人物です。

 ですから、史実かどうかというと疑わしいところがある。

 ですが、エピソードが鮮烈なので今回とりあげることにしました。

 これがきっかけでローマは王政から共和制の道を歩むことになったのですから。

 

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 時代は紀元前509年。

 

 ルクレティアはスプリウス・ルクレティウス・トリキピティヌスの娘で、ルキウス・タルクィニウス・コッラティヌス貞淑な妻でした。

 (名前が長くて覚えにくいですね……)


 当時のローマはルトゥリ人
アルデアを攻撃中での夫は遠征軍の陣中にいました。

 この時に王子セクストゥス・タルクィニウスという人物がいました。

 覚えにくい名前ですね……。ローマの人物はたいてい語尾に『ウス』とかつきますから。

 

 この時、セクストゥス・タルクィニウスらがコッラティヌスに、
「俺たちの妻はどっちが貞淑な女なんだろうな?」

 と、言ったわけですよ。

 

 妻にしてみれば、たまったもんじゃないと言わんばかりの話でしょうなぁ……。

 

 王子さまの申し出なので断るわけにはいきません。しぶしぶだったのか、案外ノリノリだったのかそこまではわかりません。なんと二人は陣営を抜け出して二人が妻としてつつましく暮らしているかどうか確かめにいったのです。

 

 勝手に抜け出したわけですよ、軍を。

 これって指揮官たる王様から許可をもらったのでしょうか?

 妻が貞淑かどうか確かめるために陣中を抜け出すって。

 絶対にもらっているわけがない。こんなの許可されるはずがない。

 

 時代が時代なら軍法会議ものですよ。

 

 さて、妻たちのところにやってきた二人。

 こっそりと様子を窺った訳です。

 ところが王家の妻たちはみんな宴会して楽しんでいるわけです。

 いまで言ったら一緒に奥様同士で演劇を楽しんだり、カラオケで馬鹿騒ぎをしているといったところでしょうか? いや、話のレベルが違いますね。

 国民の代表たる王妃さまなのですから。

 

 王子はがっくりと肩を落としたに違いありません。

 一方のルクレティウスの妻はというと、つつましく夫の留守を守っていました。

 ルクレティアの方が貞節だったわけです。

 

 これで話が一件落着なら問題ないのですが……。

 

 ルクレティアのもとにセクストゥスが訪れました。

 なんと剣で脅して強姦しようとしたのです。

 ルクレティアは屈せず、貞節を破るくらいなら死を選ぶと言い放ちました。

 ですが、セクストゥスの奸智はさらに上をいきました。

 死ぬなら勝手に死ね。ただし、殺したあとに裸の奴隷の死体をともに置いて、姦通の最中に殺されたようにするぞと脅したのです。

 

 死のうが生きようが、どのみちルクレティアに操を守る道はありませんでした。

 こうしてルクレティアは人妻の身でありながら、セクストゥスに犯されたのです。

 

 我が身と貞操と誇りを汚されたルクレティアは、しばらくしてローマにいた父親と戦場にいた夫を呼び出しました。父はプブリウス・ウァレリウスを、夫はルキウス・ユニウス・ブルトゥスを伴って駆けつけた。

 

 ルクレティアは4人の男たちの前で真実を話しました。

 そして男たちに復讐を誓わせると短剣で自らの命を絶ったのです。

 

 

 この事件がきっかけで王家はローマから追放されたのです。

 その後成立した共和政ローマの最初の執政官にはブルトゥスとコッラティヌスが、その後の補充執政官としてウァレリウスとルクレティウスが就任している。

 

 シェイクスピアはこの事件を題材に『ルーズリーズ陵辱』を書いています。

 最後にセクストゥスですが、ふたたび王位に返り咲こうとあれこれ策動したようですが、結局は殺されたらしいです。

 

 自業自得ですね。

ハトシェプスト 古代エジプトの男になりたがった女帝と漫画『蒼いホルスの瞳』【女たちシリーズ002】

 もしも愛する我が子が自分と反対の道を歩んだとしたら、どんなに哀しいことでしょう。
    母としての自分を子供に理解してもらえなかったら、どんなに哀しいことでしょう。

 

 

    そういう悲劇は古代エジプトの頃からありました。

 

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 今回は女王ハトシェプストのお話です。

 

 このハトシェプストですが、第18王朝、紀元前15世紀の人です。
 日本では邪馬台国ができるはるか昔の出来事。

 

 三国志もなければ項羽と劉邦もまだ生まれていない時代。
 孔子だって釈迦だって生まれていません。
 それなのにエジプトではすでに17王朝ができていたのです。とんでもない話です。

 ちなみに、このハトシェプストですが現在漫画化されています。

 

『碧いホルスの瞳』という作品で、現在『ハルタ』という雑誌で連載中です。
 漫画喫茶で読んでみましたが、なかなか面白いのでおすすめです。
 ちなみに少女漫画家の山岸涼子先生もこのハトシェプストの短編を描いています。


 さて、そもそも紀元前15世紀ってどういう時代だったんでしょうか?

 

 ローマ帝国だってありませんし、ギリシャには都市国家つまりポリスは勃興していません。

 中国だと殷の時代です。
 エジプトではハトシェプストの時代のすこし後に預言者のモーゼが登場します。

 まだモーゼの十戒もない時代なのです。


 ハトシェプストの生涯

 

 ハトシェプストはトトメス1世の娘として生まれました。トトメス1世はなかなか優秀な王さまで、軍人としても優れていました。

 


 少女時代のハトシェプストについては、漫画『蒼いホルスの瞳』で生き生きと描かれています。男勝りで堂々とした女性だったのでしょう。もちろん漫画なので史実どおりかは疑わしいです。近代なら史料も豊富なので本当の性格に近いものが書けるでしょうが、なにしろ紀元前15世紀、三国志よりもさらに千年以上も前の話です。

 

 

 さて、ハトシェプストはトトメス2世と結婚します。

 このトトメス2世、父親はトトメス1世です。

 

 あれ? おかしい、と思うかもしれません。古代エジプトの歴史に詳しい方はご存知だと思いますが、エジプトの王家は近親婚なんです。


 トトメス2世はハトシェプストの弟だったのです。母親が違う異母兄弟です。
 
 だが、このトトメス2世は病弱だったといいます。その治世は3年だったとも13年だったとも言われています。短い人生だったのは間違いありません。

 近親婚を繰り返すと遺伝的に病弱な子が生まれやすいのです。王家というめぐまれた環境に育ちながらも短命な人物が多いのはそのためです。

 トトメス2世は死ぬ前に側室イシスとの子であるトトメス3世を後継者として指名します。

 ですが、息子が成人する前にトトメス2世が死去してしまいます。

 

当時のエジプトでは女性は王になれませんでしたが、他方で王の嫡出の長女に王位継承権があり、その夫が王になるという現在では分かりにくい制度になっていました。


 ハトシェプストの治世

 後の時代となると自ら男と宣言するハトシェプストですが、その治世は女性的で平和なものでした。戦争をせず、外交で平和な世の中をつくりました。

 だが、彼女の治世は善いものでも、彼女の人生が幸せだったとは言い切れません。

 

 息子のトトメス3世との仲はきわめて不穏なものでした。


 トトメス3世の治世は母親とは正反対でした。『エジプトのナポレオン』と呼ばれるほどその軍事的は優れていて、軍事的にたいへんな業績をあげました。
 そして母の死後、ハトシェプストに関する記録をすべて抹消しました。


’(これについては異説があります。エジプトの考古学者ザヒ・ハワス氏はハトシェプストとトトメス3世の関係は良好だったとの説を唱えています。)



『蒼い瞳のホルス』について

 

 

 じつは『蒼い瞳のホルス』についていくつかのブログで感想を読みました。

 で、こんな感想があったんですよ。

 

 

 つまらない、と……。(汗)

 

 

 そりゃあ、万人に受ける作品は無理だよな、そういう否定的な意見もあるよな、むしろ否定的な意見がある方が健全だよなと。そのブログをみてみるとその人は歴史好きなんですよ。それもコアなレベルの。

 

 

 ああ……。

 これって歴史好きの『あるある』なんですよ。(涙)

 

 

  歴史好きは『歴史小説』とか『歴史漫画』とかに対する目が異常なまでに厳しいんですよ。

 僕自身、何度テレビの前で時代劇をみて『これは違うだろう!!』と毒づいたことか……。(歴史好きのなかではそんなに重症ではないと思うんですが)

 この『蒼い瞳のホルス』は犬童千絵先生が描いている作品です。

 

 女性が描いている作品なので、その視線は当然なから女性視点になっています。その女性視点が『つまらない……』と書いたブロガーの方は気に入らなかったのでしょう。

 

 たとえば作中にでてくるトトメス2世ですが、暴力的で、男の身勝手な部分を具現化したような人物です。この記事ではトトメス2世のことを病弱と書いてしまいましたが、作品にでてくるとくらべると、

(こいつ、本当にトトメス2世かいな……)

 と、首をかしげてしまいます。

 

 この作品の一番の魅力ですが、 

 自分自身が女王になった気分が味わえる

 というところだと思います。

 

 女王になることの苦しさ、強さが味わえる作品で、そういう意味ではこの作品はおすすめです。’(↓この作品です。立ち読みして、気に入ったらお買い求めください)

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 なお、この漫画が掲載されているハルタという漫画雑誌には『乙嫁語り』も掲載されています。

 厳密には歴史漫画ではありませんが、こちらは本当におススメの作品です!!

 

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アッシリア伝説の悪女 セミラミス【女たちシリーズ001】

 すこしばかり学校で世界史の成績が良かったからといって自惚れてはなりません。

 

 恥ずかしながらこのセミラミスという女性をまったく知りませんでした。いい気になってはいけませんね。教科書ばかりが歴史ではありません。このセミラミス、西洋ではかなり有名な伝説的な女性だそうです。

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   ※ 画像はwikipediaより

 

 以前、YouTubeアッシリアに関する動画を上げたのですが、その時に調べた時点ではアッシリアにそんな女性がいたなんて知りませんでした。なんでだろうなぁ、と思ったのですが、このセミラミス、どうやら伝説上の人物で史実の人間ではないのです。だから図書館でアッシリアに関する本を調べても名前が載ってなかったわけか……。

 

 余談ですが、Youtubeにあげた動画というのがこちらです。

 なぜ世界史でアッシリアはアッシュールバニパルとニネヴェの図書館だけ覚えろと教えられるのか?【ゆっくり歴史実況】

 

 ですから、厳密にはこの『歴史エンタメ遊園地』にふさわしい登場人物ではありません。歴史ではなくて神話なのですから。

 

 じゃあ、なんで紹介するんだよ。と、お怒りかもしれません。

 まったく未知の人物なので、覚えるために書いているのです。

 

 ちなみにセミラミスは自分が想像していたよりもはるかに有名で、ロッシーニがオペラを作曲している。しかし、それ以上にゲームの影響が強いでしょう。『Fate』で残忍な女性として登場します。

 さて、このセミラミスはいかなる女性なのか……。

 

 伝説の悪女 セミラミス

 

 伝承を信じるとするならば、その出生からしてすでに彼女の生涯は忌まわしい。

 彼女の母デルケトーは、アフロディーテの怒りを買ったため女神の若い信者に情愛を抱く呪いを掛けられる。若い信者と関係を持ったことを恥じたデルケトーはその信者を殺し、シリアで生んだ赤子を岩砂漠に放置してアシュケロン(都市)の近くの湖に身を投げた。

 

 ただでさえ生きる力のない赤子。それが砂漠に放置あっという間に死ぬのは火を見るよりも明らか。

 しかし、不思議なことが起こりました。

 なぜか鳩がやってきて赤子だったセミラミスの体を温めたり、ミルクやチーズまで運んでくれたのです。

 どういうわけなのか、神の思し召しなのかわかりませんが、鳩のおかげでセミラミスは生きながらえることができたのです。やがてセミラミスは拾われました。人々はこの鳩の不思議さに感動して。

 

 彼女は王室の羊飼いのシンマスに引き渡され、シンマスには子がいなかったので彼女を娘のように世話して「セミラミス」という名を与えました。

 シリア語で『鳩』という意味です。

 彼女が成長した頃、アッシリア王室の裁判所から来たシリア総督のオンネスの目に留まり、彼と結婚する。二人は首都ニヌス(ニネヴェ)で暮らし、ヒュアパテス(Hyapates)とヒュダスペス(Hydaspes)の二児が生まれた。オンネスはセミラミスの美貌と才能の虜となり、彼女の助言の通りに行動したので物事が全て上手くいった。

 シリア総督のオンネスの目に留まり、彼と結婚する。

 その美貌で夫をよく助けたといいます。

 

 このセミラミス、すごいんです。服をつくれるんです。なんでも

男女の判別が出来ないような形状で、熱を遮り肌の色を隠せるような服)

 を作ったとか。

 

 この時考案した服は利便性に優れていたため、後のメディア王国やペルシア人の間でよく使用されたそうです。

 

 ところがニヌスという王がこの噂を聞きつけました。

 ニヌスはオンネスに自分の娘ソサネスを妻に与えるので、変わりにセミラミスを渡すように脅したのです。

 さらには、ニヌス王から同意せねば目玉を抉ると。

 この残酷な脅しにすっかり肝を潰したオンネスは断ることもできず、さりとて もできず、首を吊って死んでしまいました。

 

 残されたセミラミスはニヌス王と結婚します。

 そして子供を産むのですが、ニヌス王は謎の死を遂げるのです。

 一説には伝説上初の毒殺事件だと言われているらしいです。

 

 まあ、毒殺される方もされる方ですけどね。

 自業自得といいますか。


 王ニヌスの死後、セミラミスが女王の地位につきます。
 ニヌス以上の王になると誓ったセミラミスは、バビロニアに都市を建築することを決意して二百万人もの男性を連れて来ます。

 

 二百万人はさすがにすさまじいですね……。

 

 じつはこの二百万という数字をみた段階で、

(あ、これは作り話だわ……)

 と、さすがに思いました。当時のアッシリアの人口がどのくらいか知りませんが、軍隊だと最大動員数がせいぜい5,6万。200万なんて北朝鮮マスゲームだってそんなに集まりません。

 

   セミラミスの野心はとどまるところを知りません。

 領土を広げるため、インドへの遠征をくわだてます。

 300万の兵士と20万の騎兵、10万の戦車を集め出陣した。

 

(兵士も300万もとか、兵站どうするんだよ……どうやって兵士を食わせるんだよと考えた俺は夢がないんでしょう)

 

 ところがインド遠征の途中で大事件が起きました。

 なんとニヌス王との息子であるニニュアスが宦官を使って陰謀を企てる事件が起こったのです。

 これを聞いて、アモン神殿での神託を思い出しました。

セミラミスは男達の中から消え、アジアで不滅の栄典を得る。そして息子のニニュアスが彼女に陰謀を企てるときが最期となる」

 女王としての命運が尽きたことを悟りました。

 息子を処罰せず、逆に国家に対して彼に従うように命ずると直ぐに姿を消した。

 その後の彼女の行方は誰もわかりません。

 

 ううむ……。

 なぁんか後半はアレクサンドロス大王だよねぇ……。

 

 後半はあまりにも話のつくりが綺麗すぎて、読んでいてちょっと感情移入しにくかったです。

 これの元ネタは『歴史叢書』という本で、書いたのはシケリアのディオドロスという人物です。紀元前1世紀の人なので、アレクサンドロス大王の時代よりもずっと後の時代の人。
 当然、アレクサンドロス大王のことは知っていたでしょう。

 

 

【織田信長】 漫画やゲームにみる織田信長。その存在は『善』か『悪』か!! 

織田信長】 漫画やゲームにみる織田信長。その存在は『善』か『悪』か!!

 

 どんなに歴史に興味のない人間でも織田信長だけは知っています。
 歴史に興味のない兄ちゃんでも織田信長の名前を聞くと、

 

 

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   ※ 画像はwikipediaより

 

『カッコいい……!!』

 目をキラキラと輝かせるのです。
 説明不要ですが、信長は乱世の戦国時代を終わらせた英雄です。

 でも、私は思うんです。


 信長っていい人だったのか……?
  ひょっとしてすごい悪い奴だったんじゃないの?

  歴史愛好家の皆様には石を投げられるような発言かもしれません。

 そもそも時は戦国。世は乱世。
 殺さなければ殺される世の中。

 親兄弟でさえ殺されるかもしれないのです。
 騙まし討ちなど日常茶飯事。
 『いい人』では生きていけるわけがないのです。

 そんな信長ですが……。

 信長の悪行とは……。

 ○比叡山延暦寺焼き討ち

 

 1571年、信長は反抗的な態度をとっていた比叡山延暦寺に兵を差し向ける。

 当時の比叡山はただの寺ではなく、一大軍事勢力でした。

  僧侶のみならず児童の首までことごとく刎ねたといいます。

  wikipediaにある織田信長の項目の一文を引用すると、

 

九月十二日、叡山を取詰め、根本中堂、山王二十一社を初め奉り、零仏、零社、僧坊、経巻一宇も残さず、一時に雲霞のごとく焼き払い、灰燼の地と為社哀れなれ、山下の男女老若、右往、左往に廃忘を致し、取物も取敢へず、悉くかちはだしにして八王子山に逃上り、社内ほ逃籠、諸卒四方より鬨声を上げて攻め上る、僧俗、児童、智者、上人一々に首をきり、信長公の御目に懸け、是は山頭において其隠れなき高僧、貴僧、有智の僧と申し、其他美女、小童其員を知れず召捕り— 信長公記

 

 とあります。いちおう信長公記は第一級の史料です。この文章を読んで引っかかったのは、

 其他美女、小童其員を知れず召捕り

 この一文です。

 

 なんでお寺に美女がいたんでしょうかね……。

 小童もそういうことなのでしょうか?

 

 当時の仏教はかなり腐敗していたのは間違いありません。


 ○長島一向一揆

 1574年、信長は一向一揆門徒たちの降伏をゆるさず、女子供を問わず処刑した。

 ○荒木村重
 

 謀反を起こした荒木村重の一族郎党の婦女子122人を、鉄砲、槍・長刀などで処刑、
 さらに女388人男124人を4つの家に押し込め、周囲に草を積んで焼き殺した。

 信長公記』ではその様を「魚をのけぞるように上を下へと波のように動き焦熱、大焦地獄そのままに炎にむせんで踊り上がり飛び上がった」と書いてある。


(このほかにも安土城の侍女たちを皆殺しにしたという話もあります。

 侍女たちが城を留守にして外に出かけたら折悪しく信長が帰ってきた。もぬけの殻になっていた城をみた信長は激怒、侍女たちを縛り上げた上で、全て殺したといいます。
 しかも侍女たちの助命嘆願を行った桑実寺の長老までも殺したといいます。
 ただし、実際にはそのような虐殺はなかったと桑実寺の住職がいっていたと遠藤周作のエッセイに書いてありました)

 じつはいい人だった?

 

 その一方で、信長は農民に対して重税をかけなかったといいます。

 家臣に対してはたいへん厳しく絶対的な服従を強いた信長ですが、領民に対しては気さくな一面がありました。少年の頃は身分にとらわれず若い連中と遊ぶ日々をおくっていました。庶民と共に踊ってその汗を拭いてやったりしたこともあるそうです。宣教師ルイス・フロイスも信長のことを親切だと言っています。

 


  信長を取り上げている漫画・ゲーム

 信長の野望

 



 やはり一番有名なのは信長の野望でしょう。
 累計1000万本を売り上げた日本一有名なゲームです。

 日本の歴史ゲームといえばまずこのシリーズでしょう。

 最近は『無双』シリーズの方が有名になっていますが、昔からのコーエーファンはこちらの方のシリーズを楽しみに待っていることでしょう。


 
 信長協奏曲

 

 

 石井あゆみ先生が『ゲッサン』で連載している漫画です。

 小栗旬主演で映画化もされました。
 
 しかし、これは厳密には信長の漫画といっていいものか……。
 漫画や映画を見た方はすでにご存知だと思いますが、この信長は『織田信長』ではないのです。
 サブローという高校生が戦国時代にタイプスリップして、信長として人生を過ごすというもの。

 ガチ勢の歴史好きには物足りないかもしれませんが、少女漫画なので歴史初心者でも楽しめる作品となっています。

 

 抜忍伝説

 

 

 

 どの漫画やゲームでも英雄として描かれている信長ですが、この『抜忍伝説』では信長は徹底的に悪人で、しかも矮小な存在として描かれています。
 ちなみにこのゲームは1988年に発売されたゲームです。
 つまり約30年前のゲーム……!!

 いまの世の中でこれを遊ぶのはきわめて困難なことでしょう。

 なにしろPCゲームで、その対応機種がMSXやPC8801、PC9801などのWINDOWS以前のゲームなのです。

 ゲーム性はさすがに今の時代からみると、やや見劣りするようです。



 余談ですが、このゲームを製作した飯島健男氏(いまは飯島多紀哉氏)は『信長の野望』を製作した光栄の元社員です。

 自分の元の会社の看板ゲームの主人公である信長を倒すというのが、なかなかの因縁を感じさせますね。

 

 

 ちなみに……。

 

 伊忍道

 

 

 

 光栄もちゃっかり似たようなゲームを作っています。

 1991年のことなので、『抜忍伝説』の方が早いですね。

 主人公である織田信長がこのときばかりは敵ボスになっている。

 最後になりますが、一つとびきりの怪作を紹介したいと思います。

 内閣総理大臣織田信長

 

 


 志野靖史先生が1994年から1997年まで『週刊ヤングアニマル』にて連載した作品です。
 織田信長が総理大臣となって日本を改革する話なのですが、これがまたぶっ飛んでいる。

 第一回の所信表明にていきなり『鳴かぬなら殺してしまえホトトギス』と中指たてて絶叫。選挙では国会議事堂を爆破。自分を肖像にした一千万円札を作るわ、米国の大統領クリリントンに政略結婚を申し込むわ、そのクリリントンが強硬な要求をつきつけたところ忍者をホワイトハウスに忍び込ませ、寝ている間に裃に着替えさせるなどまさに戦国時代のノリ。

 

 円高による深刻な不況も、

 


 この一言で片付ける。


 ギャグ漫画の宿命でもありますが、後半になってパワーダウンしたのが残念でなりません。
 

 なお、志野靖史先生ですが朝日時代小説大賞を受賞し、歴史小説家としてデビューしています。

 本当に多彩な才能の持ち主なんですね。

 

  信長は永遠に愛される。

 

 

 毀誉褒貶ありますが、ほとんどのゲームや漫画で信長は好意的に書かれています。
 戦国時代を終わらせた信長の改革精神は、武士の世の終わった民主主義である21世紀の現代でも歓迎されています。
 織田信長はいつの世でも愛されることでしょう。