ルクレティア 古代ローマの陵辱された貞淑な人妻【女たちシリーズ003】
これも歴史上に存在するかわからない女性です。
女性の名はルクレティア。
ローマ建国史に出てくる伝説上の人物です。
ですから、史実かどうかというと疑わしいところがある。
ですが、エピソードが鮮烈なので今回とりあげることにしました。
これがきっかけでローマは王政から共和制の道を歩むことになったのですから。
時代は紀元前509年。
ルクレティアはスプリウス・ルクレティウス・トリキピティヌスの娘で、ルキウス・タルクィニウス・コッラティヌスの貞淑な妻でした。
(名前が長くて覚えにくいですね……)
当時のローマはルトゥリ人のアルデアを攻撃中での夫は遠征軍の陣中にいました。
この時に王子セクストゥス・タルクィニウスという人物がいました。
覚えにくい名前ですね……。ローマの人物はたいてい語尾に『ウス』とかつきますから。
この時、セクストゥス・タルクィニウスらがコッラティヌスに、
「俺たちの妻はどっちが貞淑な女なんだろうな?」
と、言ったわけですよ。
妻にしてみれば、たまったもんじゃないと言わんばかりの話でしょうなぁ……。
王子さまの申し出なので断るわけにはいきません。しぶしぶだったのか、案外ノリノリだったのかそこまではわかりません。なんと二人は陣営を抜け出して二人が妻としてつつましく暮らしているかどうか確かめにいったのです。
勝手に抜け出したわけですよ、軍を。
これって指揮官たる王様から許可をもらったのでしょうか?
妻が貞淑かどうか確かめるために陣中を抜け出すって。
絶対にもらっているわけがない。こんなの許可されるはずがない。
時代が時代なら軍法会議ものですよ。
さて、妻たちのところにやってきた二人。
こっそりと様子を窺った訳です。
ところが王家の妻たちはみんな宴会して楽しんでいるわけです。
いまで言ったら一緒に奥様同士で演劇を楽しんだり、カラオケで馬鹿騒ぎをしているといったところでしょうか? いや、話のレベルが違いますね。
国民の代表たる王妃さまなのですから。
王子はがっくりと肩を落としたに違いありません。
一方のルクレティウスの妻はというと、つつましく夫の留守を守っていました。
ルクレティアの方が貞節だったわけです。
これで話が一件落着なら問題ないのですが……。
ルクレティアのもとにセクストゥスが訪れました。
なんと剣で脅して強姦しようとしたのです。
ルクレティアは屈せず、貞節を破るくらいなら死を選ぶと言い放ちました。
ですが、セクストゥスの奸智はさらに上をいきました。
死ぬなら勝手に死ね。ただし、殺したあとに裸の奴隷の死体をともに置いて、姦通の最中に殺されたようにするぞと脅したのです。
死のうが生きようが、どのみちルクレティアに操を守る道はありませんでした。
こうしてルクレティアは人妻の身でありながら、セクストゥスに犯されたのです。
我が身と貞操と誇りを汚されたルクレティアは、しばらくしてローマにいた父親と戦場にいた夫を呼び出しました。父はプブリウス・ウァレリウスを、夫はルキウス・ユニウス・ブルトゥスを伴って駆けつけた。
ルクレティアは4人の男たちの前で真実を話しました。
そして男たちに復讐を誓わせると短剣で自らの命を絶ったのです。
この事件がきっかけで王家はローマから追放されたのです。
その後成立した共和政ローマの最初の執政官にはブルトゥスとコッラティヌスが、その後の補充執政官としてウァレリウスとルクレティウスが就任している。
シェイクスピアはこの事件を題材に『ルーズリーズ陵辱』を書いています。
最後にセクストゥスですが、ふたたび王位に返り咲こうとあれこれ策動したようですが、結局は殺されたらしいです。
自業自得ですね。