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歴史の面白い話を書いていこうと。

夏姫 男を翻弄した人生か、男に翻弄された人生か【女たちシリーズ004】

 今回は夏姫。

 『なつひめ』と読みそうですが、『かき』と読みます。この人物を最初に知ったのは陳舜臣さんの『十八史略』を読んだときです。f:id:kagurayukkuri:20180901174437p:plain

 夏姫は鄭の穆公の娘です。
(鄭の穆公はのちに覇者となる晋の文公となる重耳を粗末に扱った『文公』の息子ですね。こちらも文公なのでややこしくてこんがらがってしまいます。今回の話とはさほど関係ありませんが)

 『十八史略』は子供の頃に読んだのですが、正直どんな内容だったのか全部は覚えていません。でも、夏姫のことははっきりと覚えています。それだけ強烈なエピソードでしたから。

 夏姫は兄である子蛮と禁断の関係にあったのです。

 近親相姦の関係にあったのです。

 ですが、子蛮は程なく死んでしまいました。

 ふたりが男女の関係にあったという淫らな噂はすぐに広まりました。当然、父親である穆公の耳にも入ります。鄭の国にとっては一大事です。この醜聞を一刻も早く押さえ込まなければなりません。

 そこで、陳の大夫の夏御叔に嫁がせました。

 夏姫は子供を産んで、さてやっと落ち着いたかなといったところで、夏御叔が死んでしまったのです。

 夏姫にかかわった男がどちらも早死してしまったのだから、たまったものではありません。

『夏御叔は自然死したのではなくて、殺されたんじゃないのか……』

 などという者まで出てくる有様。

 ところが話はこれで終わらない。今度は陳の霊公と陳の大夫の孔寧・儀行父までもが私通するという始末。

 いかに夏姫の生きた男社会で、しかも封建社会、君主からの誘いは断れないとはいえ、いささか男性関係が派手すぎます。

 しかも、3人は夏姫の肌着をつけて朝廷でふざけあっているというではありませんか……。

 現代に置き換えてみればおっさん2人がブラジャーつけて職場で遊んでいるわけです。これはもう気持ち悪いとしか言いようがない。

 中小企業ならそれでもまだどうにかなるかもしれません。(こういう職場が現実にあったら、働いているOLはどう思うか……)

 しかし、陳の霊公は一国の君主です。

 真面目な家臣だったら、当然黙って見過ごせません。

 洩冶という家臣が霊公を諫めたわけです。

 このことを霊公が孔寧・儀行父に言うと、

洩冶を殺しましょう

 と、言うわけです。霊公は何も言わなかった。

 孔寧・儀行父は洩冶を殺しました。

 これはもう国家として終わっていますね……。

 当たり前のことなんだけど、止めなかった時点で殺害を黙認したようなもの。

 というか、むしろ孔寧・儀行父が霊公の意を汲んで洩冶を殺害したといった方が正しい解釈だと思う。

 もちろんこの三人は洩冶を殺したことに微塵も罪悪感を感じてはいません。

 夏姫のところで三人で宴会しているわけですよ。

 

霊公「夏徴舒はおまえに似ているな」

儀行父は「いやいや、我が君にも似ておりますぞ」

 

 酔っ払ってこんなことを言い合っているわけです。

 これに激怒した夏徴舒は霊公の暗殺を決意します。

 霊公が外出するところを厩から弓を射て殺害した。孔寧・儀行父は身の危険を感じて亡命しました。

 一国の君主が暗殺されてしまったわけですから、陳の国は大混乱に陥りました。

 そこで強国である楚が軍事介入してくるわけです。

 楚の軍がやってきて、夏徴舒は殺されてしまうわけです。

 荘王は陳を自分の領地にしようとしたのですが、家臣の諌めもあって、に亡命していた陳の太子の媯午を迎え、陳を復国させました。

 そして、成公として即位します。

 ところが話はこれで終わらないわけです。

 なんと、荘王は母親の夏姫を後宮に入れようとするのです。

 謀反人の母親を自分のハーレムに入れようとか、いくら夏姫が絶世の美女とはいえちょっと異常ですよね。

 

 夏姫は男を狂わせる魔性のなにかを秘めていたでしょうか。

 

 これをとがめた家臣がいます。巫臣といいます。

 「色を貪るのを淫といい、淫は大罰を受けるものです」といって王を諫言したので、荘王は後宮に入れるのを取りやめました。

 また子反(公子側)が彼女を取ろうとしたので、巫臣は「これは不祥の人です」といって引き止めた。

 荘王は夏姫を連尹の襄老にとつがせたが、襄老が邲の戦いで戦死し、その遺体が回収できなかったため、襄老の子の黒要が彼女と通じた。

  ここまでくると悪女という生やさしいレベルではありません。

 巫臣は自分が妻に迎えるので故郷の鄭に帰るように夏姫に伝えた。

 巫臣はへの使者として立った。巫臣は鄭に立ち寄ると、夏姫を迎えて、ともに斉に逃れようとした。しかし斉は鞍の戦いで敗れたばかりだったために取りやめ、郤至と連絡して晋に亡命した。巫臣は晋により邢の大夫とされた

 これに怒ったのはかつて夏姫を手に入れようとした子反と荘王の弟の子重でした。

 巫臣の一族を皆殺しにしてしまうのです。

 復讐に燃える巫臣は呉の国を説いて、楚に侵攻させるのです。

 このため子重と子反は1年に7度も戦いに駆けずりまわることとなったといいます。