娼婦フリュネと弁護士ヒュペレイデス【女たちシリーズ010】
今回も古代ギリシャの娼婦です。
紹介する女性はフリュネです。
この女性、裁判で罪に問われたときに聴衆の前で裸になって無罪になったといういわくつきの人物。
このフリュネという名は本名ではないのです。
『あだ名』です。
ネサレテというのが本当の名です。ちなみにどういう意味かというと、
という意味だそうです……。すげえな、とすこしドン引きしてしまいますが、当時の娼婦たちはよくこんな風にあだ名をつけられていたらしいです。紀元前371年頃生まれだそうで、テーパイの軍事的天才エパミノンダスがレウクトラの戦いでスパルタを倒して覇権をにぎった年なんですね。
フリュネは娼婦ですがたいへん裕福な女性でした。
これはと思った人物は無料でその身をあたえたといいます。たとえば哲学者のディオゲネスに身をあたえたそうです。
いつの時代も男は女に弱い。色気に弱い。
この女の武器を盾にとって戦争反対のストライキを起こしたアリストファネスの『女の平和』なんて作品があるくらいです。
こんな美人がどうして罪に問われたかというと、これがまたよくわからないのです。
ある種の不敬罪があったとのことです。
ジャン=レオン・ジェローム画
『アレオパゴス会議の前でのフリュネ』
弁護したのはヒュペレイデスという弁護士で、フリュネの恋人の一人です。
判決が不利になるかと見えた時、ヒュペレイデスが裁判官達の同情を得ようとフリュネの衣服を脱がせ、胸元を顕わにした。彼女の美しさが、神秘的な恐れとともに裁判官達の胸を打ち、彼らは「アプロディーテーの女預言者であり神官」に有罪の判決を下すことができなかった。
ここまでだとべつにwikipediaにも書いてあることなんですが、じつはこのエピソード、フリュネの美しさをし強調したエピソードであると同時にヒュペレイデスの雄弁を語ったエピソードでもあるんですね。
ヒュペレイデスはただの弁護士ではありませんでした。
アレクサンドロス大王の死後、ギリシャはマゲドニア帝国にたいして反乱を起こします。
その指導者の一人こそがヒュペレイデスなのです。
しかし、軍事的に優れたマケドニア帝国には太刀打ちできませんでした。
ラミア戦争に敗れたギリシャの指導者たちは処刑されます。もちろん、ピュペレイデスも……。
日本でも江戸時代に花魁たちがもてはやされましたが、権力者たちと交友を持ち政治にまで口を出すほど力をもつ娼婦は現れませんでした。古代ギリシャの女たちが家庭のなかに押し込められたからこそ咲き誇った花々なのです。