恋仇を罠にかけて破滅させる女 鄭袖【女たちシリーズ013】
優しい人って誰でも好きだと思います。
でも、それがよからぬ陰謀を隠し持っていたら……。
腹黒い人間は、一件優しそうに見えるものです。
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これは戦国時代の楚のお話。
楚は戦国七雄の一つで、南方に位置する大国です。
南の国なので、文化が中原とは違う独特の文化圏をもつ国家です。
この話は楚の末期、懐王の時代です。
ところでいつの時代でも王というのは女が大好きです。
とくに美女が。
よほどの名君でもなければその誘惑に打ち勝つことができない。
王ですから、後宮にはたくさんの美女がいます。
王はお世継ぎを得なければいけませんから、そういうわがままも許されるわけですね。
そして後宮の女たちはというと、王の寵愛を得るために必死になるわけです。
自分の女としての幸せは王の寵愛によって決まる、そういう世界なわけですから。
王さまに愛された女性が幸せをつかみ取れるわけです。
その寵愛を受けた女性が、見た目同様に美しい心をもっていれば問題ありません。
ですが、もしも蛇蝎のごとく凶悪な心の持ち主であったとしたら……。
後宮においてそのような女性は稀です。見た目の華やかさとは裏腹に足を引っ張り合う修羅場の世界なのです。それはもう本当に命がけです。
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懐王という王様のもとに魏の王様から美女が送られました。
秦が大国となり、脅威となった時代です。
だからお互いに仲良くしなければならないわけですね。
いつの時代も権力者は女が好きです。
昔の話ではありません。日本にだって権力者に取り入るために女を送ることがありました。
戦後の日本でもそういうことがあったそうです。とある商社が東南アジアの大統領に取り入るために……。
話が脱線しました。もとに戻しましょう。楚の国には鄭袖という女性が愛妾がいました。
その鄭袖が嫉妬しないかと、心配で心配で仕方ありません。
後宮というのは嫉妬の渦巻く世界、王の愛のみで生きている女たちの巣屈なのです。
そのもとへ美女がやってきたのですから、女たちは嫉妬しないはずがありません。
ところが……。
王の意に反して、後宮のライバルであるはずの鄭袖が、その美女をたいへんかわいがったのです。
部屋の調度も自分と同じものを用意してやり、さらに異国で心細い の相談相手になってあげたのです。
「女は色香で仕えるものと思っていたが、鄭袖はじつに真心のある女だ」
と、懐王も満足しました。
魏から送られてきた美女もすっかり心を
しばらく経ってからのこと、鄭袖は美女に、
「陛下はあなたを心の底から愛していらっしゃるようです。ですが、どうもあなたの鼻の形がお気に召さないようです。ですから、これからは陛下の前に出るときは、鼻を小袖で隠した方がいいですわ」
美女は納得してそのとおりにした。
さて、懐王はというと美女が自分の前に現れると鼻を隠すものですから不思議でなりません。
そこで日頃から面倒を見ている鄭袖に相談しました。
「どうして最近、私の前では、鼻を隠しておるのじゃろう。」
「それは・・・・。」
鄭袖は、言い難そうにしていた。
「何か知っておるのか。遠慮は要らぬ。早く申せ。」
「はい、陛下のお体の臭いが嫌いだと申しておりまして・・・・・。」
「何だと、けしからんヤツじゃ。即刻、鼻切りの刑にしてしまえ。」
美女は、申し開きをする機会も無く、鼻を削ぎ落とされた。
鄭袖はじつに陰惨で狡猾な方法で後宮のライバルを葬ったわけです。
しかし……。
騙される懐王も懐王なのです。
もしも懐王が賢君であるならば、鄭袖はこのような策を弄することはなかったでしょう。
鄭袖は懐王が騙されるとわかっていたわめです。
ちなみにこの懐王は中国の代表的な暗君の一人です。
秦との戦いに敗れ秦に幽閉されたまま寂しく死んでいきました。